キャラクター紹介
知樹: 魔術一家の天才でとても優秀な少女、色々あって日本の学校に通っている。
魔繰: 知樹に仕える悪魔メイド。見た目と行動には相応しくない最上級悪魔。
知樹「魔繰、ティシュがないわ」
少女の声が西洋的建築物に響く。
少女がいる部屋は書室。
少女はビンテージものの揺り椅子に座っている。
魔繰という存在に問いかけた少女だがその部屋はその少女以外誰もいない。
魔繰「ティッシュならそこにありますでしょう。お嬢様。若くして老眼鏡が必要ですか?」
誰もいなかったはずの部屋にメイドの姿をしたモノが存在している。
まるでずっとそこにいたかのような立ち姿で。
そのメイドの髪は血のように紅く、身長は少女体型。
美少女とは言えずとも整っている顔立ち。
煉獄の炎のような眼を己が主に向ける。
目線を向けられた少女は呆けた、しかし冷酷な眼を向ける。
知樹「老眼鏡は近くを見るためにかけるものよ」
魔繰「へえ、そうなんですか」
知樹「良いからティシュをとって」
魔繰「何? ティシュを巡る冒険の始まりですか?」
知樹「いや、そういうのじゃなくて、出そうなの」
魔繰「……アダルトな内容は駄目ですよ、世界の意思によって消されてしまいますもの」
知樹「だ、から」
へっぷち。そんな声と共に少女から唾液が空中に発せられる。
唾液がぺしゃりと少女が読んでいた魔術書にかかる。
魔繰「花粉症ですか? こんな真夏に」
魔繰はそんな事を言いながら知樹にティシュを渡す。
過保護にもクルクルと螺旋状に折って鼻にいれやすいようにしたものだ。
そしてその用途を完璧に少女は使い2本の鼻の穴にティシュを詰め込む少女。
知樹「違うわ、風邪よ」
知樹は鼻声で魔繰に怒りの声調をもって伝える。
魔繰はそんな怒りを飄々と一笑に付す。
知樹「こんな時まで冷静ね。私は貴女の主なのよ、心配くらいしなさいよ」
魔繰「知らないのですか? 悪魔は神に祈らないし、人間の心配なんてしないのです」
知樹「……流石悪魔……」
魔繰は笑みを浮かべながら、眼を少女に向ける。
魔繰「お嬢様、別に、ご飯を作ってあげなくもありませんわよ?」
知樹「ごめん、今日は頼むわ」
魔繰「養生効果のある料理を作ってあげますわ!!」
ダダダッと魔繰は去っていく。
知樹「大丈夫かな……」
知樹は鼻にいれたティシュを抜く。
とろりと鼻水が漏れる。
知樹「あっ……あのヤロー、ティシュも持っていきやがった」
キッチン。
知樹の部屋の懐古的家構えと違い最新式の装備のキッチンに魔繰は立っていた。
魔繰「うーん、どんな面白いものを食べさせてあげましょうか」
魔繰はレシピ本を斜め読みしながら悩んでいる。
ペラペラ。
ペラペラ。
魔繰「うーん、お粥は駄目ね。釈迦じゃないんだから」
ペラペラ。
ペラペラ。
魔繰「インドカリー……へえ、風邪なんてカリーを食えば治る……。いや、風邪なんだから軽いもの食わせてやれよ、悪魔の私が霞んじゃうぜ」
ペラペラ。
ペラペラ。
魔繰「うーん」
魔繰「敢えて生の豚肉でも出してみるか……?」
知樹「殺すぞ貴様」
魔繰「動いちゃ駄目ですよ、風邪なのに」
シュシュ、とティシュを取り鼻をかむ知樹。
それを見る魔繰。
知樹「こんな体調の悪い日にゃ生肉はおろか、肉も食いたくないわよ」
魔繰「英国淑女は軟弱者ですねぇ」
知樹「私は人間なのよ、悪魔の常識と一緒にしないでよ」
魔繰「はいはい、で? 何が食べたいのですか?」
知樹「そうね……」
魔繰「……軽いものが良いなら果物とかはどうです?」
知樹「ああ、良いわね」
魔繰「はい、知恵の実ですわ」
魔繰は冷蔵庫の野菜室から林檎を取り出してポイッと知樹に渡す。
知樹「悪魔か、あんたは」
魔繰「そうでけど」
知樹「そうだった」
知樹はポイッと魔繰に渡し返す。
魔繰「知恵の実よりバナナ派ですか?」
知樹「いや普通に林檎が好きだけど、切るくらいしなさいよ」
魔繰「はいはい」
魔繰は皿を取り手刀で林檎を切る。
花のように切れ口から十二方向に開く。
知樹「おお」
魔繰「ちゃんと手は洗ってますからね」
知樹「ふーん」
魔繰「……どうしました?」
知樹「何かさ、切った林檎1人で食べるのって悲しくない?」
魔繰「は?」
知樹「楊枝とかでさ、刺して、食べさせてくれたりしてくれると嬉しいぞ」
魔繰「病人かよ貴女は」
知樹「病人だよ、ばーか」
魔繰「あ、そうだった……」
知樹「別に1人で食べても良いんだけどね……」
魔繰「ま、人間の友達がいない独りぼっちの貴女だし、仕方ありませんね。はい」
知樹「一言余計なんだよ、お前は」
魔繰「悪魔ですもの」
知樹「そうね」
おしまい。